2021年以降、つまりPMP試験の内容が新試験に変わり、PMBOK®が第7版にアップデートされて以降の模擬試験の得点者のデータを見ると、70%~80%以上の高得点を上げる上位得点者には共通の特徴があることがわかってきました。
その上位得点者のグループは、他のグループとは明らかな違いをもって、上位の一群を形成しています。
一方、もう少しで合格ゾーンに突入できる実力があるにもかかわらず、もったいない問題で失点し、ぎりぎり60点手前で足踏みしている、 ボーダーライン(55点~65点)上もしくはあと一歩のところにいる受験生 がひとつの大きな集団を作っています。
このコラムではボーダーライン上の受験生が苦手としていて、上位得点者がクリアする問題の種類を特定し、ボーダーライン上の受験生が、合格ゾーンに突入するための「最速合格のヒント」をご提供します。
上位得点者はどこが違う?
模擬試験の合格ラインは本番試験と同じく60点に設定してあり、開催回によっても異なりますが、受験者の得点はほぼ正規分布しています。その中で、70点、80点を獲得するグループには 面白い特徴があります。
上位得点者は、ある種の問題について、100%全員が正解しています。上位得点者の中にもまれにミスする人もいる、という感じですらなくて、まるで「ああ、この問題なら、できて当たり前だよね」という感じで、全員が軽々と得点してゆきます。
それらの問題についてさらに良く見てみると、2つのことが見えてきました。それは・・・
●『アジャイル実務ガイド』の狙われやすいポイントで確実に得点している。
●パターン化されたシナリオ問題(類型問題)について 確実に得点している。
(図)上位得点者の違い
9月28日資料(インテュイット)_20220928a狙われやすい問題は確実に得点している
まず、一つ目ですが、狙われやすい問題として、アジャイルあるいはリーンのフレームワークの知識や基本概念を確認する問題があります。新試験に変わって、アジャイル系の問題のウエイトが非常に大きくなっています。新しくなったPMP試験の中で狙われやすい問題とは?。例えば、以下のような問題は、アジャイルのフレームワークの基礎知識を問う問題です。
※以降の問題は説明の為に例示するもので本番試験を予想したものではありません。
(例題1)
感染症対策チームは、感染者数の増加に応じて関係者数が増減する。一方、様々な安全性リスクに対しては、従来と同様のセーフガードの体制や仕組みは必須である。このようなハイブリッド型のプロジェクト・チームをテーラリングする上で、最適なアプローチは次のうちどれか。
(選択肢)
A:クリスタル方法論
B:スクラムのスクラム
C:ユーザー機能駆動開発
D:カンバン方式
「感染者数の増加で関係者数が増減する」とあるので、プロジェクトの規模(スケール)が重要な要素となるハイブリッドアプローチです。この前提で定義されているアプローチは、選択肢の中では、クリスタル方法論のみです。クリスタル方法論は、プロジェクトの規模(プロジェクトに関係する人数)とプロジェクトの重要性に基づいて、拡張性と厳密性を提供するアプローチです。(アジャイル実務ガイドP106 付録A3)
ポイントは、落としてはいけないアジャイルの基本概念やモデル、アプローチに関しては「アジャイル実務ガイド」にほとんど網羅されていますよ!ということです。 PMP試験では、キーワードを直接問う問題はありませんが、実はキーワードや基本概念の理解が前提となっている問題は多いです。 この種の問題は、必ず得点できます。逆に言うと、落としたらもったいない種類の問題です。
で、何をすればいいか?「アジャイル実務ガイド」の内容を、頭に叩き込む必要があります。上位得点者は、この手の設問に出会うと当たり前のように得点をゲットしてゆきます。ただし、アジャイル実務ガイドだけを読んでも、抽象度が高すぎて最初は内容が入ってこないかもしれません。そんなときは、すでに市販が開始されている第7版に対応した日本語のPMP試験の攻略テキストや試験学習書がわかりやすいです。「アジャイル実務ガイド」を補完する参考書としてお勧めいたします。
(図)アジャイル/リーン フレームワーク
9月28日資料(インテュイット)_20220928b上位得点者は『アジャイル 自主練 』している
アジャイル系でもう1題。アジャイルのマインドセットについての問題です。
(例題2)
あなたは、アジャイル型プロジェクトのプロジェクト・マネジャーである。デモが終了した翌日、クライアントのA氏から、現在開発中のプロダクトに対して新しい機能を追加したいとの申し出があった。その機能の一部は、すでにバックログアイテムにはリストされていたものの優先順位は低い。
プロジェクト・マネジャーとしてあなたはA氏の要望に対してどのような対応をとるべきか。
(選択肢)
A:ゴール達成の視点からチームと検討し必要があれば優先順位を変更し受入れ基準の見直しを行う。
B:イテレーションの期間を延ばし、柔軟なスケジュール管理を可能にする。
C:バックログアイテムに含まれているので計画に沿ってリリースされる旨をA氏に伝える。
D:新機能の追加についてはアジャイル型プロジェクトにおいても予測型と同様の変更管理プロセスを適用する。
アジャイル型プロジェクトにおいては、プロジェクトの進行につれてリストされたバックログの優先順位が変更になり場合によっては当初の受入れ基準に見直しが入る場合があります。上記の問題の正解は「A:ゴール達成の視点からチームと検討し必要があれば優先順位を変更し受入れ基準の見直しを行う。」です。
この設問は「アジャイル実務ガイド」第2章に記載のある「アジャイル宣言の背後にある12の原則」(アジャイル実務ガイドP9)(”要求の変更はたとえ開発の後期であっても歓迎します。変化を味方につけることによって、お客様の競争力を引き上げます。”)に対応しています。
予測型(ウォーターフォール型)のプロジェクトに従事し、プロジェクト採算を意識しながら厳密な変更管理を運営しているプロジェクトマネジャーにとっては、 上記のような基本的な アジャイル のマインドセットになじめない方もいるかもしれません。
実は 上位得点者の多くが、実は職場ではウォーターフォール型のプロジェクト実務を担当されています。ただ皆さん、PMPの学習と並行して、ご自分でPMI-ACPの資格を取得していたり、スクラム・マスターの勉強をしていたり、とか、自主的にアジャイルの学習に取り組まれています。
会社の実務でアジャイルをやってないからといって、不安を感じる必要はありません。 PMP試験はスクラム・マスターをめざされている方を対象にした試験ではありません。 アジャイル集合教育コースや、市販のアジャイルテキスト、WEBからダウンロードできるスクラムガイド(The Definitive Guide to Scrum: The Rules of the Game / November 2020)など、手に入るアジャイル系の教材はたくさんあります。PMI-ACP試験の参考書やコースも役に立ちます。
第6版知識を有効活用している
もう一つ例を挙げておきます。次の問題は完成時の総コストを求める典型的な問題です。
(例題3)
プロジェクトが後半にさしかかったところで、完成時総予算(BAC)での着地が困難であることが明らかになった。現時点で入手可能な情報を用いて、プロジェクトで将来発生する状況や事象を予測し、できるだけ正確な完成時の総コスト (EAC) を算出したい。とるべきアクションとして最も適切なものは次のうちどれか。
(選択肢)
A:統計モデルを参照しチームのボトムアップによる手作業で算出する。
B:EVMデータから求められる統計的EACの手法を活用して算出する。
C:予算レートを用いたETCに基づくEACを予測する。
D:累積CPIと累積SPIを考慮したETCに基づくEACを予測する。
正解は「A:統計モデルを参照しチームのボトムアップによる手作業で算出する」なんですが、前提知識として、アーンド・バリュー分析の手法を理解している必要があります。ちなみに統計モデルとして有益な累積CPIとSPIは、現場を熟知したチームのボトムアップ値を補強するものに過ぎず(B、D)、また予算内着地が困難な時点で計画予算レートをそのまま適応しても正確なEACは得られません。(C)
上記の問題はPMBOK®第7版では、『プロジェクト・パフォーマンス領域』に、計画系の実務知識、測定テクニックのひとつとして記載されています。ここも狙われやすい領域の一つです。
この手の問題は、PMBOK®第6版や関連する参考書に詳しく説明が載っています。 書店やネットショップ、古本屋さんで入手可能です。 既存の参考書や資料を上手に利用しながらプロジェクトマネジメントの実務知識を復習しておきましょう。
※ このページの例題は、『リアルタイム模試』に出題された設問から引用し、編集を加えています。
(図)アーンド・バリュー分析
9月28日資料(インテュイット)_20220928cつづく