PMIのサイトでPMBOK®第7版の日本語訳がダウンロード可能になりました。
来年度、PMBOK®第7版でPMP試験の受験を計画されている方は、アクセル全開で第7版ベースの学習を加速する環境が整いました。
このタイミングでPMP試験受験生のみなさんが特に気になっているのは、キーワードの日本語訳ではないでしょうか。そこで今回は、 PMBOK®第7版の日本語訳 について注目してみます。
PMBOK® 第7版 キーワードの日本語訳について
すでにご承知のとおりPMBOK®第7版の用語と概念についての多くはPMBOK®第6版と一致しています。(PMBOK® 第7版 X5.4 標準策定プロセス)
ただし、PMBOK® 第6版と異なる、または新たに登場したいくつかの重要なキーワードがあります。また第6版を継承したキーワードについても、改めて第7版における意味やその重要性を認識しておくべき用語があります。日本語で受験される方がほとんどだと思いますので、やはりキーワードの翻訳内容について本番試験前に正しく押さえておきたいところです。
なので今回は、具体的に受験生にとって特に重要なキーワードからいくつかピックアップして、今回どのような日本語訳があてられているのか、第6版と比較しながらチェックしてみましょう。
“デリバリー”(delivery)
まずはデリバリー(delivery)。最重要キーワードの一つです。第6版には「デリバリー」と日本語訳された箇所は見当たらず、第7版で初登場。いきなりパフォーマンス領域(performance domains)の一つの名称にも採用されていることからも、第6版との決定的な違いを示すキーワードであると見て間違いありません。
2021年6月リリースの日本語版ECO(試験内容の概要 2021年1月2日からの試験に関する更新)には、すでに、デリバリー・ソリューション(プロセス領域、タスク11)にデリバリーという用語が使われていたので、予想はできました。が、「納品」とか「提供」といった訳も考えられる中で「デリバリー」が選択されたので、◎です。
ただし本文中では予測型マネジメントに関する記述に限らず、引き続き「納品」と訳されている箇所もいくつかあり、比較的緩い使い方がされているようです(Figure 2-28. Information Radiator、他)。「引渡し」と訳されていた箇所も1か所だけありました。(アジャイル実務ガイドでは、全頁に渡り「引渡し」で統一)
ちなみに顧客のサーバーに全社新システムを導入設置するのも、ステージング環境から運用部門の本番機に新機能を小分けしてアップロードするのもデリバリーです。
以下に「デリバリー」(delivery)を使用した文例をいくつかピックアップしておきます。(いずれも AGILE PRACTICE GUIDE)
・イテレーションと増分が、動くプロダクトのデリバリーに役立つ方法
(How iterations and increments help deliver working product)
・多くのチームは、要求事項を反復的に探索し、漸進的により頻繁にデリバリーするとき、変化への適応が容易であることを発見する。
(Many teams discover that when they explore the requirements iteratively and deliver more often incrementally, the teams adapt to changes more easily)
(以下、PMBOK® 第7版 2.3.1 開発、ケイデンス、ライフサイクルの関係)
・成果物の種類と開発アプローチは、プロジェクトのデリバリーの回数とケイデンスに影響を与える。
(The type of deliverables and the development approach influence the number and cadence for project deliveries)
“所産 ” (result)
deliverables –> 成果物、 result –> 所産
「所産」(result)という耳慣れない日本語はどうもピンときませんが、これはPMBOK® 第6版から継承したもの。product, service, or result (プロダクト、サービス、所産)という具合に毎回セットで登場します。プロダクトやサービス以外のプロジェクトが生み出したもの、顧客には届かないがプロジェクトの活動の中で創出されたもの、と理解してよいでしょう。
社内で用いるプロジェクト計画書は、顧客へ納品しなくても、重要なプロジェクトの作成物の一つ。最終成果文書やプロジェクトの工程で作成された課題一覧表やテスト結果についても、顧客への提出あるなしに関わらず、一式きちんと保管しておくことが求められます。
以下に「所産」(result)の例を挙げておきます。
・エンドユーザーとのインタビュー結果
・画面キャプチャなどの試験エビデンス
・バグの収束曲線やテスト消化曲線
・開発チームの内部不具合管理表
・出荷確認会議などの議事録・・・
ちなみにPMBOK® 第7版には 作成物(artifacts アーティファクト)という言葉も出現しますが、これは、models, methods, and artifacts (モデル、方法、作成物)というようにもっとハイレベルな概念として用いられる用語。広くプロジェクトの作成物の全般を指しています。(PMBOK® 第7版 1.1 PMBOK® ガイドの構成 第4章 モデル、方法、作成物)
“プロダクトオーナー ” (product owner)
プロダクトオーナーとは、「プロダクトの価値を最大化し、最終プロダクトの責任を負う人」のこと。(PMBOK® 第7版 用語集 3.定義)
PMBOK® 第7版「適用分野に固有の用語は用語集から除外」と明記されているにもかかわらず掲載されていることから、「プロダクトオーナー」は特定の方法論に限定されない一般的でしかも重用な概念である、とPMIが認識していることがわかります。
第6版ではプロダクト・オーナーに関する記述は2か所。これに対して第7版では、16か所に増えています。
以下に、プロダクトオーナー(product owner)を使った文例を挙げておきます。
・組織の方針と組織構造に応じて、プロジェクト、スポンサー、プロダクト・オーナー、またはプログラムおよびポートフォリオのPMOによってマネジメント予備がマネジメントされることがある。(PMBOK® 第7版 2.4.2.4 予算)
(Depending on the organization’s policies and organizational structure, management reserves may be managed by the project, sponsor, product owner, or the PMO at the program and portfolio level)
ところでプロダクトオーナーの記述が文中に数多く出現するのに、PMBOK® 第7版には、スクラムマスターに関する記述は一つもありません。この点からも、同じPMIが主催するPMI-ACP試験とは、PMP試験の対象者やスコープが明確に分けられていることがわかります。
(参考):PMI Agile Certified Practitioner (PMI-ACP)®
“スチュワードシップ ” (Stewardship)
スチュワード (Steward) には、「強い責任感と倫理観をもって、主人から任された任務や財産の管理に取り組む人」という意味があります。 「執事」って誰だよ?というくらい日本人にはなじみのない単語、概念なので、「スチュワードシップ」以外に置き換える日本語は見当たりません。ちなみに筆者の小学校時代、クラスに家に執事がいる子は一人もいませんでした。受験生はこの言葉をまるっと覚えるしかありません。
金融の世界では、すでにクライアントのお金を預かる機関投資家に対して、その行動規範を定めた「スチュワードシップ・コード」というある種の国際標準が存在します。
・インテグリティ (Integrity)
・配慮 (Care)
・信頼 (Trustworthiness)
・コンプライアンス (Compliance)
これらがスチュワードシップ の特徴的な概念ですが、注意しなければならないのは、原理・原則のセクションの一番最初に登場していること。つまり、単なる倫理規定の一種として遵守すれば良いという話ではなくて、他の11の原理・原則と、密接に関連しあっていること、そして「アクション」として行動に移すことが求められている点です。次のアクションを尋ねる4択問題のシナリオにさりげなく紛れ込んでくることが十分に予想されます。