PMIのサイトでPMBOK®第7版の日本語訳がダウンロード可能になりました。
来年度、PMBOK®第7版でPMP試験の受験を計画されている方は、アクセル全開で第7版ベースの学習を加速する環境が整いました。

このタイミングでPMP試験受験生のみなさんが特に気になっているのは、キーワードの日本語訳ではないでしょうか。そこで今回は、 PMBOK®第7版の日本語訳 について注目してみます。(前回からのつづき)


“イテレーション”(iteration)

イテレーションとは「価値を実現するのに必要なすべての作業が実行される、プロダクトまたは成果物の開発のためにタイムボックス化されたサイクル」(PMBOK® 第7版 用語集 3.定義)。

PMBOK第7版では、用語のページでスプリントに触れていますが、基本的に全ページ「イテレーション 」で統一しています。( 原本の英語版では第6版まで sprint or iteration という書き方でしたが、今回から iteration に統一されています)

スクラムなど特定の方法論で使用されている「スプリント」ではなく、汎用的な日本語訳が選択されているようです。DAD(ディシプリンド・アジャイル・デリバリー)関連の書籍も注意深くイテレーションを使うようにしているようです。ただ、スプリント計画(イテレーション計画)のように一般的になっている呼称については併記がルールみたいです。

ちなみにデイリー・スクラムは、「デイリー・スタンドアップ」です。デイリー・スクラムは用語として本文中で紹介されています。ちょっとした違いですが、スクラムで普段仕事している人は試験中に引っ掛かって回答のリズムを崩さない様に。

(文例)
各イテレーション(「スプリント」とも呼ばれる)の終了時に、顧客は機能を提供する成果物をレビューする。(PMBOK® 第7版 2.3.5 ライフサイクルとフェーズの定義)
At the end of each iteration (sometimes known as a sprint), the customer reviews a functional deliverable.


“不確かさ ” (uncertainty)

「不確実性」という日本語訳は全面的に廃止されました。「不確実性パフォーマンス領域」ではなく、「不確かさパフォーマンス領域」です。8つのパフォーマンス領域の一つとして、ドーンと登場しました。

注目すべきはPMBOK® 第6版の「不確実性」を超えた広いスコープをカバーしている点。PMBOK® 第7版の本文中には、その日本語が指し示す以下の範囲について、しっかりと定義されているので必ず押さえておきたいです。

・不確かさ(Uncertainty)
課題、イベント、従うべき道筋、または追及すべき解決策への理解と認識の不足
・曖昧さ(Ambiguity)
不明瞭な状態、イベントの原因の特定が困難な状態、または複数の選択肢がある状態
・複雑さ(Complexity)
人間の振る舞い、システムの振る舞い、および曖昧さのために、マネジメントするのが困難なプログラム、プロジェクト、またはその環境の特性
・変動性(Volatility)
急速に予測不能な変化が生じる可能性
・リスク(RISK)
発生が不確かなイベントまたは状態。発生すると、プロジェクト目標にプラスやマイナスの影響を及ぼす。
(PMBOK® 第7版 2.8 不確かさパフォーマンス領域)

上記のすべてを「不確かさパフォーマンス領域」でカバーします。第6版では、「リスク・マネジメント」と呼ばれていたいた領域と、「統合マネジメント」と呼ばれていた領域、特に「統合変更管理」のプロセスで取り扱っていた多くの項目が、この領域に含まれています。しかも、予測型プロジェクトで見られる変更管理委員会による承認プロセスの知識を機械的に問うのではなく、チームの適応力と回復力など全体的な視点からどのようなアクションをとるべきかを問う問題が予想されます。

「曖昧さ」(Ambiguity)、「複雑さ」(Complexity)、「変動性」(Volatility)については、その特徴と違いを正確に理解するとともに、シナリオからいずれかを特定し最適な対応を選択させる出題、全体リスクとの関係を問う問題、プロジェクト・マネジャーとしてとるべきアクションに関する問題が出題されるでしょう。

この「不確かさパフォーマンス領域」はPMP試験対策上、最も注意すべき領域の一つと言って間違いありません。


他者の面倒を見ること ” (care)

care とはゴール達成のために、実際の価値を生み出すチームメンバー一人ひとりに対して最大限の配慮・関心を持ち続けること。

care for には愛情をもって接する、という意味がありますが、carring team はチームに優しさをもって接する、というような情緒的な話をしているわけではありません。


より高いパフォーマンスが期待されるプロジェクトには、表面的な役割を淡々とこなすリーダーではなく、その責任範囲を超えて組織のさまざまな事柄を真摯に監理する専門職が必要である、ということです。(PMBOK® 第7版 3.1 勤勉で、敬意を払い、面倒見の良いスチュワードであること)

最高の成果物、ゴール達成を実現するチームの一人ひとりについて、常に配慮と関心を怠らない。まるで自分の家族に対するのと同じようにチームと接する。つまり踏み越えろ、と言ってます。とりあえず朝会で進捗チェックしておけば管理職としての義務は果たした、というようなレベルではありません。「ああ、care というのはそういう意味なんだ」と深く理解することで、プロジェクト・マネジャーに期待されるアクション、予想される出題の手がかりを得ることができます。

「面倒見の良い」(caring)、、恰好の良い日本語訳ではないかもしれませんが、実は多くの日本人のプロジェクト・マネジャーがフツーにやってる、むしろ理解しやすい訳出だと思います。◎です。

(文例)
スチュワードは細心の注意を払い、組織のことに個人的なことと同じレベルで取り組む。 (PMBOK® 第7版 3.1 勤勉で、敬意を払い、面倒見の良いスチュワードであること)
Stewards pay close attention and exercise the same level of care over those matters as they would for their personal matters.

面倒を見ることには、透明性のある作業環境、オープンなコミュニケーション・チャネル、ステークホルダーがペナルティーや報復のおそれなしに懸念事項を報告できる機会を作ることも含まれる。(同)
Care includes creating a transparent working environment, open communication channels, and opportunities for stakeholders to raise concerns without penalty or fear of retribution.


キーワードから見るPMBOK第7版の試験対策

PMP試験はシナリオ問題中心なのでキーワードを尋ねる単純な問題は出題されません。
ただし、PMBOK® に記載されているキーワードの意味を正確に理解していること、プロジェクト・マネジャーがおかれた状況、背景、文脈の中で、彼/彼女がとるべきアクションにどのように関係しているのか、を知っておくことは受験生としての必須事項です。

試験対策としては、この記事で取り上げたようないくつかの重要なキーワードについては、日本語訳とともに、英語版のキーワードと対で覚えておくことをお勧めします。

メリットは以下の2つです。

(1)日本語にない概念などカタカナで置き換えられたキーワードは、原語の意味を知ることで、より正確にかつ素早く意味を理解することができる。
(2)逆に良く知られているような英語は、 PMBOK® 第7版であてられた日本語訳を対比させることで、日本語版翻訳者がそのキーワードをどのように理解してほしいのかを知ることができる。

(1)については、そのままです。補足説明はありません。
(2)は前述の care の訳が典型です。

※ 英語が好きな人、英語が得意な方でなくても、英語でキーワードを確認すると一撃で意味が理解できるときがあります。 PMBOK® 第7版の英語版のダウンロードをおすすめします。PMI会員は無料です。


まとめ

この記事で取り上げたキーワードを以下にまとめておきます。

キーワード第6版第7版
delivery デリバリー
result 所産 所産
product owner プロダクト
オーナー
プロダクト
オーナー
Stewardship スチュワードシップ
iteration スプリントまたは
イテレーション
イテレーション
uncertainty 不確実性 不確かさ
care 面倒を見る

さて、標準書の日本語への翻訳作業で特に重要なことは、訳文に不自然な揺らぎが無く、基本的に原語の意図に忠実で漏れがないこと。

標準書の翻訳とは、「スタンダード」という縛りのなかで品位と正確さを保ちつつ、意訳の誘惑に抗しながら与えられた文脈の中で読者に正しく伝わる日本語センテンスを作り上げる作業。クリエイティブな日本語センスとともに、長時間にわたる集中力を必要とする実に骨の折れる仕事です。

忖度なしでコメントすると、今回のPMBOK® 第7版日本語版についてはローカライズチームの仕事による翻訳作業のレベルはかなり高いと感じました。


(64) PMBOK 第7版 キーワード ー その2ー
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