待ちに待ったPMBOK® 第7版英語版に続き、日本語版が正式にリリースされました。 PMBOK® 第6版までが、ラーメン屋のスープのように前バージョンに継ぎ足し継ぎ足しきたのに対して、今回のリリースは完全なスクラッチベースで、まさに「革新的」といっていい内容になっています。

第7版の編集に携わったコアメンバーの13人のうちの1人であるNader K. Rad氏のインタビューおよび彼自身が公開したばかりのPMBOK® 第7版の詳細について自ら解説した動画がネットに上がっています。その中で氏は、彼らが主導した新しいPMBOKについて、オープンで率直なコメントを載せています。この記事では「中の人」である Rad氏の解説をご紹介しつつ、ベストな受験タイミングについて考察します。(2021年10月19日 更新)



プロセスよりも 原理・原則(プリンシプル) を重視

目次を見てすぐにわかるのは、「標準」がトップに配置され、「ガイド」がそれに続く構成に変わったことです。すでにアナウンスされていたことですが、 プロジェクトマネジメントの実務者の行動や言動の指針となる 12のプロジェクトマネジメントの原理・原則が、The Standard for Project Managementの中心に配置されています。これらは、 「何のために」「なぜ」 の視点で構成され、プロジェクトマネジメントを実践する者にとっては基本理念となる一連のステートメントです。

Nader K. Rad氏: 「第6版との大きな違いの一つが原理・原則(プリンシプル)です。プロセスがHOW(どうやって)にフォーカスしているのに対して、 原理・原則 はプロジェクトの目的やゴールを重視します。自分たちが作成している成果物の目的を理解しないまま、カーゴ・カルト(cargo cult)問題(本質を理解しない劣化コピーを作り続けたり、形骸化したなぞの作業を続ける状態)を引き起こしているケースをしばしば目にします。このような状態が適切でないことは自明です」

原理・原則は方法論に依存しません。スクラム、カンバン、リーン、SAFe、ディシプリンド・アジャイルといった方法論について広く理解しておくことは大切です。ただし方法論やプロセスの優位性を議論する前に、目的とゴールからプロジェクトを理解することが重要です。それによって顧客の期待に沿った、より品質の高いものを、より安く、より早く届けることができます」


原理・原則とクリティカルシンキング

原理・原則 を実際のプロジェクトに適用するために、Nader氏が重視するスキルがクリティカルシンキングの手法です。この手法によって、さまざまな偏見、ブロッカーとなる環境要因、プロセスや手続き、詳細な決め事の迷路に陥らず、常に、何のために、何をゴールとしてチームが活動しているのかを見失わないようにします。

Nader K. Rad氏: 「 原理・原則 に関連して最も重要なスキルがクリティカルシンキングの手法です。これは、問題の本質に迫り正しく解決するためのアプローチです。プロジェクトマネジメントにとって最も重要なスキルの一つは、偏見にとらわれずに問題の本質を見抜く力です。この点で、クリティカルシンキングの考え方を取り入れることは極めて重要です」


パフォーマンス領域は第6版の知識エリアとは別物

PMBOK®第7版の「ガイド」は、プロジェクトの成果を出すために重要な、関連する活動のグループとして定義された8つのプロジェクト・パフォーマンス領域を中心に構成されています。インタビューでは、単なる知識エリアからの移行ではなく、さらに踏み込んだ編集意図についてコメントしています。

Nader K. Rad氏: 「今回の第7版で、「ガイド」に含まれる、プロジェクト・パフォーマンス領域は、第6版の知識エリアと似ていると感じる人もいるかもしれません。でも答えはNOです。第6版の知識エリアを継承しているものではありません。なぜなら、第6版はプロセス(HOW:何をどうやって)の視点で整理されたもので、今回の第7版は標準で宣言した 原理・原則を前提に、ゴールや目的を達成する成果の視点でまとめたものだからです。

もちろん 原理・原則 を前提にしていますが、大きな違いは 原理・原則 がゴールや目的の視点で定義しているのに対して、 プロジェクト・パフォーマンス領域 の視点は、あくまでもプロジェクトのアウトプットである点です」


第7版は実務家の為のガイドブック

第6版はPMP資格試験の受験生にとっては、唯一無二の参考書でした。これに対して、第7版は、引き続きPMP試験の出題範囲には含まれるものの、実務家の為のガイドブック、という本来の性格をより鮮明にしています。

Nader K. Rad氏: 「PMBOKには、実務家の為の実践的なガイドブックの側面と、PMP試験の受験参考書としての側面があることは承知しています。今回の編集にあたっては、前者の視点で作業を行ないました。PMBOKが初めての読者からは、さまざまな評価を受けることはあらかじめ予想されていたことでした。

特に第6版が受験参考書として受験生に対してフレンドリーだったため比較されることもわかっていました。ただしPMBOKは、あくまでも実務家の為のガイドであり、受験参考書として特別な配慮はしていません」


PMBOK® 第7版はすべてを包む天幕

PMBOK® 第7版編集作業のコアメンバーであるNader K. Rad氏のインタビューからは、どうやら、PMBOK® 第7版 vs 第6版という捉え方が間違いで、PMBOK® 第7版 はアジャイルや予測型などの方法論を、ふわっと包む、大きな天幕(タープとかフライシートとか)のようなものであることがわかってきました。つまり、 PMBOK® 第7版 は予測型をはじめ、アジャイル、カンバン、ディシプリンド・アジャイルなどさまざまな方法論を包含している、ということになります。それが見渡す地平は前バージョンとは比較にならないほど広大です。

しかも、第7版は、「アジャイル実務ガイド」「PMBOK® 第6版」等とともに参考資料の一つ、としてできる限り身軽になろうとしているように、またその構造をできるだけシンプルにしようとしているように見えます。そこに記述された内容は一種の手がかり、スイッチ、トリガー、入り口、事例にすぎません。


また、第6版のように立ち上げから終結までの時間軸に沿ったプロセス群は不要なので、 プロジェクト・パフォーマンス領域 にはさまざまな管理テーマが一見ランダムに並んでいます。旧・知識エリアのステークホルダー管理と計画プロセス群が同列に並んでいるのを見て、最初はあれ?っと思った人もいるんじゃないでしょうか。もはや計画、実行といった開発行程を「ドメイン」と呼んで堅牢で一貫した大きなフレームとして位置づけ、工程間の遷移に必要以上に重きを置くこともなくなりました。

とはいうものの、今後の受験対策としては、新たに位置づけられた 原理・原則(プリンシプル) の重要性は言うまでもなく、その内容はECOにも埋め込まれています。また、開発アプローチの選択と密接不可分のテーラリング、さらに、モデル/メソッド/アーティファクト(プロジェクトの生成物)、についてはガイドの中で独立した章として、付録扱い(第6版 付属文書X3、及びX5)から格上げされ、この領域からの出題可能性は、より高まっています。

これまでのように予測型特有のプロセスやI/Oを中心に学習する、という使われ方はなくなるとしても、今後もPMP試験の受験生にとってのPMBOKは、最も重要な教材のひとつであり続ける。つまりこのドキュメントから、さまざまなシナリオの中で表現を変えて出題される確率が極めて高いことは間違いありません。


PMBOK ® 第6版+新ECO で年内合格を目指す

さて、それではPMP資格試験の受験生としては、2021年の後半戦では、どのような方針を立てたらいいのでしょうか?これから PMBOK® 第7版 向けの試験対策を追加しなければならないのでしょうか?

このご質問への回答はきわめて明快で、今この時点では右顧左眄せず(きょろきょろあたりの様子を伺うようなことはせず)賢者は、 年内合格を目指す!です。

理由は簡単で、

(1)試験準備の範囲をPMBOK ® 第6版+新ECOに絞れる
(2)既存の参考書や教育コースがそのまま使える。
(3)今年試験準備した努力が一切無駄にならない

という3つです。

念のためご説明しておきます。(1)年内のPMP試験問題は、PMBOK ® 第6版+新ECO(Examination Content Outline)からの出題です。出題範囲が変更になったり拡大されることはありません。(2)既存の参考書や教育コースがそのまま使えます ※ 。というか、 PMBOK® 第7版 向けの受験教材は国内ではまだ一つもリリースされていません。(3)アジャイルに大きく振った現在のECO(試験要領)がリリースされてからまだ1年とちょっとしかたっていません。なので、おそらく2022年度も当面は現行のECOが適用されることが予想されます。ということは、今年試験準備した努力が一切無駄にならない。万一、今年再チャレンジとなっても、やったことは全て来年も使える!、ということです。

であれば、すでに準備を始めている受験生にとっての最も合理的な選択は、引き続きPMBOK® 第6版と、新ECOに準拠した試験が実施されている2021年度内の受験、一択ということになります。


これまでやってきたことに自信を持ち、ゴールに向かって必要な準備を完了してください。

※ PMBOK ® 第6版対応の参考書や問題集が新ECOに対応しているかどうかには注意が必要です。非対応の場合や基礎的なアジャイル知識に触れる程度であれば「アジャイル実務ガイド 」など、別途アジャイル関連の教材を加え、準備を補強する必要があります。

アジャイル実務ガイド (日本語版) (Project Management Institute)
Kindle版 \4,958円
ペーパーバック \4,936円


PMIstandards+ ™ が参照する先にあるもの

ここまでは、本コラムの趣旨である「最速合格」の視点でのアドバイスです。一方、ある程度時間的に余裕があり、今後のビジネスライフ計画の中で幅広い領域の知識獲得をめざしている方にとってはどうでしょうか?

・・・一見、真逆のようですが、そのような方には PMBOK® 第7版(日本語版)の受験にチャレンジすることを、お勧めします。

今回シャッフルされたPMBOK® 第7版の物理的なページ数は、前バージョンに比べて非常に少ない ※ ですが、プロジェクト管理に携わる者がフツーに身に付けるべき新しい時代の知識や考え方が、プラクティショナー(研究者や組織職ではなく、実際に仕事をする人やチーム)の目線でシンプルに整理されています。

※ PDF版の英文テキストで索引まで入れて274ページ

第7版の特徴は、すでにさまざまなサイトやブログで紹介されていますが、一つの特徴は、” PMIstandards+ ™ ” と名づけられた、PMIのデジタル・コンテンツ・プラットフォームです。そこには、標準、ケーススタディ、テンプレートをはじめさまざまな記事や動画が掲載され、その内容は毎週更新されています。

この PMIstandards+™ が参照する先にあるものは、従来のPMBOKから縦方向(対象組織の軸)、横方向(方法論の軸)に大きくスケールされた新しい時代のデジタル・コンテンツ群です。 PMIstandards+ ™ には、 これまでは網羅的にPMBOKガイドの中で記載されていた最新のプラクティスや関連情報、さらには、さまざまな産業分野における実践的な適用事例が含まれています。

コロナ禍の自宅待機を奇貨として、半年間の受験勉強で蓄積され鍛えられたスキルや知識は、これからの時代にマッチしたプロマネスキルの獲得、組織内でのプロモーション、さらに組織を超えて次のステージをめざす人にとっても、間違いなくゴール達成のための非常に強力な武器の一つになるでしょう。

PMP資格試験の受験生として第7版を前提とした時に、最速合格のための学習マテリアルとして、私たちは何にどう取り組んだらいいのでしょうか。PMIstandards+ ™ が参照する領域と、 PMBOK® 第7版 でのPMP受験に必要な参考書については、次回以降のテーマとして取り上げてみたいと思います。


An insider’s overview of PMBOK®7 / Nader K. Rad

※ Nader K. Rad氏は、大規模プラント建設プロジェクトなどを経て、数多くのITプロジェクトやスタートアップビジネスに関わってきました。活動の軸足をより広範囲なビジネスドメインに広げ、プロジェクト、プログラム、ポートフォリオマネジメントの側面で数多くの企業の支援を行い今日に至ります。現在は、e-learningコースの開発や数々の標準化作業 (P3.express, NUPP, PRINCE2®, PRINCE2 Agile®, and the PMBOK® Guide)の支援を行っています。今回70人を超える PMBOK® 第7版のレビュアーの意見を参考に、新しいコンテンツを決定する13人のリーダー・エディターの1人として、第7版のリリースに深くかかわってきました。

※ この記事における引用部分はNader K. Rad氏から豆検が許可をいただいて掲載しています。
動画及びテキストからの編集、翻訳はソースの趣旨を損なわないように配慮し豆検が行いました。
本文中の引用部分の内容は、Nader K. Rad氏個人の見解です。


This article has been published through the courtecy of Mr. Nader K. Rad. Text excerpts and translations were done under the responsibility of Mameken. The contents of this text are the personal views of Mr. Nader K. Rad.

https://nader.pm
https://www.youtube.com/watch?v=hUMXIJwT4nw&t=1897s



(61) PMBOK® 第7版は原理・原則を重視