お問い合わせの多い、PMP®試験の改定後の出題内容について、変更点を中心に受験生から見た重要ポイントを以下にまとめてみました。正式な内容は米国PMI本部のウェブページ、または、米国PMI本部より公開されている新試験内容の概要にてご確認ください。 (2021年2月23日現在)



新しいドメインと出題比率(%)

良く知られているように、新しいドメインは、人、プロセス、ビジネス環境、の3つに変わりました。それぞれの試験の項目としての公表されている出題比率は以下のとおりです。

ドメイン試験の項目の割合(%)
Ⅰ.人42
Ⅱ.プロセス50
Ⅲ.ビジネス環境8
合計100

それぞれのドメインの特徴は以下のとおりです。

人:プロジェクト・チームを効果的にリードするためのスキルと活動にウェイトが置かれます。
プロセス:プロジェクトマネジメントにおける技術的側面をにフォーカスします。
ビジネス環境:プロジェクトと組織戦略の繋がりを明確にします。

新しいECO( Examination Content Outline )の見方

ECO(Examination Content Outline)を見ると、一見さまざまなタスクやイネーブラーが脈略なく置かれているように見えて、どこから手を付けていいかわからなくなるかもしれません。ただ、それぞれのテーマについてよく見てみると、いくつかの大きなグループに分かれていることがわかります。

アジャイル、予測型(レガシー)で分けて学習計画を立てる、ということでも間違いではありませんが、それぞれの領域があまりにも広大すぎて途方に暮れてしまいます。ここは、知識エリアをどうこう議論する前に、プロジェクト・マネジャーとして「自分は何をしたいのか?」 「何をすべきなのか?」 という原点に戻って、バイアスをかけずにECOを眺めてみることが大切です。

ということでECOを眺めてみると、なるほど、重要で普遍的なテーマが、シンプルに良く網羅されています。まとめたテーブルが以下です。

図1:PMI® 最新ECO(Examination Content Outline)の概要

ドメインⅠについては人やチームに関する出題内容、ドメインⅡについてはプロセスに関する出題内容、ドメインⅢについてはビジネス環境に関するテーマを扱っています。

大きな特徴は、ドメインⅠ「人」です。
  【ハイパフォーマンスなチームをどうやって作っていったらよいか】
  【個人やチームがプロジェクトをスムーズに進めるためにどのように対応したら良いか】
プロジェクト・マネジメントの重要な要素として、最初のドメインにもってくることで、人やチームの重要性をあらためて明確にしています。例年、ステークホルダー、コミュニケーションなどの「人」系の知識エリアから多数出題されます。新試験でもこの傾向は変わっていません。

ドメインⅡ「プロセス」については、
  【プロジェクトを計画する】
  【プロジェクトを実行・管理する】
  【プロジェクトの終結・移行を管理する】
という項目がメインのテーマとなっています。
レガシー系(予測型プロジェクト)に関する設問については比較的PMBOKの第6版に近い構成ですが、アジャイル系については、 計画プロセスにフォーカスした予測型ライフサイクルと異なり、デリバリー・マネジメントが重視されるのは現実のプロジェクトと同じ。PMBOK第7版に沿って言えば、想定される8つのパフォーマンスドメインのうち、「デリバリー・パフォーマンス・ドメイン」に紐着くと思われる数多くの設問が出題されています。

ドメインⅢ「ビジネス環境」については、ちょっと、要注意です。
  【プロジェクトの価値の評価】
  【外部環境の変化への対処】
  【組織の変革の支援】
といった、これまで多くのプロマネの方には、どちらかと言えば、サブテーマに近いと思われた組織変革に関する領域がドメインとして明確に試験の第一階層のスコープに入ってきています。合否の分かれ目は意外とこのドメインかもしれません。180問中、14問は確実にこのドメイン から出題されます。食わず嫌いを克服して、確実に押さえておきましょう。
ビジネス環境で注意しておきたいのは、グローバルチーム、バーチャルチームなど、パンデミック下で激変しているリアルワールドの状況を反映したプロジェクトチームの体制、組織編制に関する設問です。

新試験の変更の意図を理解して学習アプローチを決める

今回の新試験の変更のポイントは大きく2つあります。一つは「マネジメント」に関する視点が拡充されたこと。もう一つは、プロジェクトの方法論(プロジェクトライフサイクルの選択肢)が増えたことです。新試験を作成した委員会のメンバーがどのような意図をもって変更したのかを理解することで、学習アプローチは自然と決まってきます。

新試験のスコープの拡大については、ザックリ縦方向と横 方向 、2つの方向性がある、と考えると、広大なプロジェクトマネジメントの知識領域にマップされたECOアップデートの意図が、かなり理解しやすくなるはずです。


【縦方向の視点:マネジメントの階層】

図2: マネジメント階層への視点の拡大

縦の方向へのスコープの拡大が、ドメインⅢで代表される、プロジェクト環境の領域です。旧試験との大きな違いはマネジメントの視点が隣接する組織階層へ拡大したこと。
組織の変革に向けて、関係する個人やチームが対応するにはどうしたら良いか。 チェンジマネジメントの知識や能力がPMP試験のスコープに入ります。
どちらかと言えば、旧試験では、プロジェクトを上手に計画する視点のウエイトが大きかったので、ここが大きく進化したポイントの一つです。


【横方向の視点:プロジェクト・ライフサイクルの選択肢】

図3:プロジェクト・ライフサイクル選択に関する視点の拡大

もう一つ、旧試験の出題領域との大きな違いは、プロジェクト・ライフサイクルの選択肢が拡大したことです。

ご存知のとおり、新試験では、予測型つまりウォーターフォール以外のプロジェクトのテーマが50%を占めています。
それらの方法論には、スクラムだけでなく、カンバン方式や、リーン、SAFe(スケールド・アジャイル)、ディシプリンド・アジャイル・デリバリ(DAD)などさまざまな方法論が含まれます。 それにともなって、どの方法論を選択したら良いかというアプローチやプロジェクト・ライフサイクルを選定する能力や知識が試されます。 レガシー経験の多い受験生にとっての試験対策は、まずはスクラムの常識をあたりまえに理解してからの話。PMBOK第7版公開以降の合格を目指すなら、さらにリーンやDADからの出題も今後視野に入ってきます。


過去の試験が新しくなったECOの変更点から必ず出題されていたことを考えると、変更点を押さえ、その意図を正しく把握することは、確実な合格ライン突破のための鉄板ルールです。



(59) PMP®新試験のECOをじっくり眺めてみた