PMP®試験に合格するためには、シナリオ問題はやっかいなハードルの一つです。参考書を読んでも、なぜ、その解答が正しいのかわからない、なぜその解答にたどりつくのかわからない、問題文を読む限り正しいとは思えない、正解に納得がいかない、などさまざまな声を聞きます。

PMP®試験では、プロジェクト・マネジメントの用語を尋ねるような単純な問題はほとんどありません。むしろ、業務課題や状況、役割を意識させてプロジェクト・マネジャーとしての次のアクションを聞いてくるような数行にわたる長文の問題が数多くみられます。そこで今回は、みんながつまづく「長文シナリオ問題」の攻略法について例題付きで解説いたします。


学習レベルのフレームワーク

学習レベルをシンプルな階層構造で図示したのが、下記のBloom’s Taxonomyですが、PMP®の試験は、Recall(暗記型)の問題はほとんどなく、Application(応用型)のシナリオ問題がメインです。Application(応用型)の問題の特徴は、①まず最初に設定されたシチュエーションを理解し、②最適なアクションやソリューションを評価する、という2つのステップをとることです。単に、学習したキーワードを思い出すだけではダメで、キーワードや重要な概念の理解を前提にそれをどうやって現実のシーンや業務課題に適応し、応用すべきかという判断を要求してきます。

(図)Bloom’s Taxonomy 「学習の為のフレームワーク」
Inside the PMP® Question Writing Process
Mike Griffiths Southern Alberta Chapter
Source:Project Management.com

本項では、やっかいな「長文のシナリオ問題」の解き方について、実際のオンライン模試についてご質問をいただいた内容をヒントに、「長文シナリオ問題」の攻略法を大公開したいと思います!(といっても、シンプルないくつかの戦略を頭に入れておくだけなんですが)。
以下の 「長文のシナリオ問題」 に対する戦略で、強い気持ちを持って確実に年内合格を実現してください。


正解は設問を読んだだけではわからない

複数のケースが想定されたり、与えられた情報だけでは断定できない、など設問を読見終わっても必ずしも結論が出ないことがあります。でも、それはそれでいいんです。ほっておきます。
PMIの試験に出題される問題は、最適なものを選べ、最も確かなものを選べ、という形式が多くみられます。つまり、該当するものは複数あるぞ、と言っているのです。

つまり設問の中だけで、完全に正解が特定できないケースが多く、その場合は、ある程度あたりをつけた正解にピン止めして、他の選択肢を除外できる根拠を探してゆくことで正解を見つけてゆく作業になります。
そして、特定はできないが、どっちが正解に近い?を判断するためのヒントも設問の中にあります。


設問中のヒントとなるキーワードやセンテンスを特定する

チコちゃんに叱られる!(C)NHK という番組がありますが、設問は、ぼーっと読んでちゃいけません。一回目はさらっと掴み、2回目は食い入るように読んで、手がかりとなるセンテンスやキーワードを慎重にチェックします。まれにダマシもありますが、おおむねひねくれた問題は少ないです。隠されたヒントを察知できるあなたの知識と理論と、プロジェクト・マネジャーとしての偉大な常識を、設問の向こう側から出題者がジッと見つめています。


フレア型問題に惑わされない

一方、フレア型問題にも注意が必要です。フレアとは、赤外線誘導対空ミサイルを妨害する目的に使用する囮(おとり)弾のこと。母機から射出され、マグネシウムなどを燃焼、赤外線を発することでミサイル先端の検知器による追尾(ロックオン)を引き寄せ、被弾を免れます。試験問題にはこのようなフレア型の問題があります。試験中はフレアに惑わされず正しい選択肢にロックオンしつづける必要があります。

シナリオ問題(例題1)

塗装大手のマメノキ・ペイントは、ここ数年海外市場開拓を急速にすすめてきた。今回シンガポールの大手塗料企業を買収するタイミングで、IRFS(国際会計基準)の導入を計画している。あなたは本プロジェクトのプロジェクト・マネジャーである。プロジェクトが中盤にさしかかったところで開催された全社プロジェクト推進会議で、スケジュール効率指数が3カ月連続して1.0を割り込んだことを指摘され、リリース日程が遅れないように必要な処置をとるようにトップから指示された。スケジュールの遅れは、品質強化のためのテストシナリオを追加したことが理由であり、当月中のリカバリが可能でベースラインにも影響がない。会議終了後チームに対して、計画スケジュールに沿って作業を完了させるように指示を行った。あなたが指示した作業は次のうちどれか。

【選択肢】

1. 是正処置
2. 予防処置
3. 欠陥修正
4. 計画書の更新

【正解】 

是正処置

【考え方】

上記の例は、「計画からの逸脱を軌道回復させるアクションが、”是正処置”」であることを理解しているかどうか、を問う設問です。本文中の、”スケジュール効率指数が3カ月連続して1.0を割り込んだ”、”ベースラインにも影響がない” というセンテンスが、”是正処置”を導出するための手がかりとなりますが、「IRFS(国際会計基準)の導入」、「シンガポールの大手塗料企業」、「全社プロジェクト推進会議」といった意味ありげなワードは、シナリオを構成させるための背景にすぎません。

参考までに。計画書に沿うように再調整を行う活動は是正処置です。是正処置はプロジェクト・ベースラインに影響を与えず、パフォーマンスを改善します。予防処置は、「逸脱からの復帰」ではなく、将来のパフォーマンスが計画書に沿うように事前に行う作業です。欠陥修正は、バグ修正など、不適合プロダクトを修正するための作業そのものです。計画書の更新は、正しいコントロール下にあるプロジェクト文書や計画書の記載内容に変更や追加を加える作業です。迷わず正しいと思われる選択肢を正解として選びます。


「最も適切なものを選択せよ」

最適なものを選べ、最も確かなものを選べ、という形式で終わる設問には、「本命」の他に、「対抗」がいる!と考えて、まず間違いありません。

・「本命」(正解)
・「対抗」(正しいが、設問で与えられた条件に照らすと、最適ではないもの)

正しいが最適ではない、というところが「対抗」のポイントです。「対抗」となる選択肢は、その命題自体は「真」であるように設定されています。特に受験者の日常業務で選択しているアクションやプロセスである場合はフラストレーションが高まります。心理的なコントロールを失わないようにしてください。
我々の目的は何か?1点でも多く得点することです。そのためにやるべきことは何か。出題者が最適ではないとしている根拠(キーワードやフレーズ、制約条件)が設問の中に潜んでいないかを注意深く観察することです。出題者は、受験者が出題テーマの本質について深く正確に理解していることを確認したいと考えています。

それでも確信が持てない2つの選択肢がある場合は、理不尽さに憤慨するよりも、さっさと、より適正なもの、より正確なもの、よりPMIマインドに沿っているもの、を選択しておきます。その時、なぜそっちが正しいと考えたかについて、既に身に付けた知識を根拠に自分なりの筋道だった理由を考えます。メモをしておいて、時間があればあとで戻って検証すると正解率はアップします。最終的に結論が出ないまま時間切れ、は最低の結末です。空白にせず、確からしいと判断した方の回答を埋めておけば正解となる確率は50%以上です。” 50% 以上”、というのは極度に集中した状態での直観はけっこう正しいから。


プロジェクト・マネジャーとしての偉大な常識に従う

PMBOK®ガイドのどこにも書いていない、ツールと技法にも含まれない、という問題が結構あります。職業倫理に関する問題などは、特に、どこに書いてあるの?と突っ込みたくなるような問題も結構あります。PMP®試験はPMBOK®ガイドブックがヒントになる問題が多いですが、前述のとおりRecall型ではない、そこに書いてあることをどれだけ正確に記憶しているかをチェックする試験ではありません。

あなたが学習してきた知識の引き出しのどこにも該当する断片が見つからない時は、偉大な常識に従う、という奥の手を使います。自分の常識ではないですよ。プロジェクト・マネジャーとしてどんな行動をとるべきか、について考え、正解と思われる選択肢を選びます。その際に、すでに身に着けた知識や理論を根拠に、自分なりの筋道のたった理由が裏づけにあると、まちがいなくPMP®資格合格が一歩近づきます。

シナリオ問題(例題

ビーンズ化粧品(B社)は独自の皮膚科学の研究成果を製品に反映しマーケットから高い支持を集めてきた。しかし業績を支えてきたインバウンド需要がここへきて急激に落ち込んでいる。同社のマーケティング戦略室は販売コストの低いインターネット通販をB社のオンラインサイトで開始する決定をし、同社の基幹システムの構築・運用を担当するアジア・パシフィック・ソリューションズ社(A社)に対し見積り依頼を行なった。あなたはA社のプロジェクト・マネジャーとして、マーケティング戦略室のディレクターからヒアリングを行い見積書を作成した。見積り書を提出した結果、B社から想定価格より高く、少なくとも提示価格よりさらに20%の減額が必要であると連絡してきた。A社としても、案件が減少するこの時期においてはできる限り受注件数を落としたくない。あなたがとるべきアクションとして最も適切なものは次のうちどれか。

【選択肢】

1.レコメンデーション機能を今回のスコープから除外し次回に回すことを提案する。
2.コストの高い開発要員を単価の安い開発要員と入れ替え、テスト工程を短縮する。
3.会議費、節電、コピー削減などプロジェクトを通してのコスト削減努力で原価圧縮を行う。
4.事業責任者とミーティングを行い減額時のマネジメント予備費からの補填を依頼する。

【正解】

1.レコメンデーション機能を今回のスコープから除外し次回に回すことを提案する。

【考え方】

プロジェクト・マネジャーとしてまず行うことは、機能のカットや組換え、スコープの縮小などによるカウンターの提案です。今回のリリース対象に含めなくても良い機能を次回に回すことができれば、プロジェクトの受注総額を縮小せずに、本契約の提示金額を大幅に削減する可能性が出てきます。レコメンデーション機能は、消費者の購買意欲を刺激しますが、購買機能を実現する上で必須ではありません。ここを次回にまわす方向でクライアントに逆提案を行うことが、最も妥当な方法だと考えます。

ちなみに他の選択肢は、コストの高い開発要員を単価の安い開発要員と入れ替え、テスト工程を短縮することは、計画した製品の納期や品質をリスクにさらすことになります。節電などによるコスト削減で20%に相当するコストカットは現実的ではありません。上位マネジメントへのエスカレーションはプロジェクト・マネジャーとして交渉の結果、解決の可能性が無い場合に最後に検討する選択肢です。


上記のシンプルな戦略について、なーんだ、そんなことか、という方もいらっしゃるでしょうし、ほほー、なるほどねー、と肚落ちする方もいるでしょう。いずれにしても、長文シナリオ問題を前にして、内容がほとんど頭に入ってこないで時間ばかりが過ぎて、最後は4択問題のギャンブルになってしまうパターンは避けるべきです。ここまでやったんだ、という自分が準備してきたことに対する率直な自負と、自分なりのゆるぎないシンプルな戦略をもって臨むことが大切です。


※ 設問の例は実際の出題内容とは異なります。

updated 2020/11/11

(55)「長文シナリオ問題」の攻略法