PMI「倫理・職務規定」とは?
PMP本試験において、多くの受験者が悩むテーマのひとつがPMI「倫理・職務規定」に関する設問です。これは、PMIが重視する原理・原則に基づく判断を求められる典型的な出題分野です。
PMI「倫理・職務規定」とは、私たちがグローバルなプロジェクトマネジメント・コミュニティにおいて自分自身および同僚実務者に期待することを記述したもので、目指す理想と、この職業上の役割やボランティア的な役割において必要とされる行動を明文化しています。(出典:PMI 「倫理・職務規定」および「倫理的意思決定フレームワーク」)
PMIの倫理・職務規定そのものは、十ページ弱のシンプルな構成のドキュメントですが、試験では多くの場合、複雑なシナリオ形式で出題されます。そのため、内容を理解していても、場面がひねられていると判断に迷い、結果として失点につながってしまうことがあります。特に合格ラインギリギリの点数帯では、この分野での失点が合否を分けることも少なくありません。
そこで本記事では、PMI「倫理・職務規定」に関して「必ず押さえておきたい典型的な出題パターン」と「正解を導くための考え方」について、具体的な問題例とともに解説します。
典型的な出題パターン(抜粋)
PMI「倫理・職務規定」の典型的な問題の類型は、十数個程度に集約されます。その中でも特に頻繁に出題される「利害の衝突」の代表的な出題パターンが以下です。
A.権限ある立場の関係者から親族の採用を強く求められる:
B.現地慣習と収賄の境界線が曖昧な場面での意思決定:
C.自身の関係する企業がプロジェクトに関与していることを開示しない:
ストレートに言えば、
A.権限ある立場の関係者から親族の採用を強く求められる、とは、「メンバー親族のコネ採用をゴリ押し」されるケース、
B.現地慣習と収賄の境界線が曖昧な場面での意思決定、とは、「現地慣習と増収賄のビミョーな境界線」を判断するケース、
C.自身の関係する企業がプロジェクトに関与していることを開示しない、とは、「実は自分の関係する会社がプロジェクトの実行や応札に参加している事実を黙ってる」というケースです。
以下では、それぞれのパターンについて、実際の出題形式を想定した例題を用いながら、「正解を導くための考え方」について解説していきます。
A.権限ある立場の関係者から親族の採用を強く求められる:
<例題>
あなたは、新興国におけるデータセンター構築プロジェクトを担当している。事業の許認可を管轄する監督官庁の幹部から、親族をプロジェクトの重要ポジションに推薦してほしいと強く求められた。推薦された人物には一定の経験があるが、他により適任と思われる候補者もいる。この場合、あなたが取るべき最も適切な対応はどれか。
<選択肢>
A. 採用基準に基づき、最も適任な候補者を選定し、その判断理由を関係者に説明する
B. プロジェクト獲得の観点から監督官庁との関係を優先し、推薦された親族を採用する
C. 採用プロセスは維持しつつ、選考基準を一部緩和して親族を採用する
D. 採用しない方針を固めた上で、形式的に最終面接までは進める
<正解>
A. 採用基準に基づき、最も適任な候補者を選定し、その判断理由を関係者に説明する
<解説>
PMI「倫理・職務規定」においては、「公平性(Fairness)」と「誠実性(Integrity)」の原則が強く求められます。推薦の有無に関わらず、すべての応募者を定められた基準で公平に評価し、採用の可否を判断する必要があります。また、その理由についても透明性を保ち、関係者に説明できる状態を整えることが重要です。
その他の選択肢は以下の理由により不適切です:
B:判断の中立性を損ない、5.2.2の理想基準に違反します。
C:評価基準を緩和する行為は、公正な選考の原則に反します。
D:形式的なプロセスにより、外部から見た公平性が損なわれます。
●●考え方●●
・現地の商慣習にできるだけ従い、パートナー、監督官庁との良好な関係構築に努力。
・ただしメンバー採用の基本はゴール達成に必要とされるスキルと本人能力の合致度合い
・評価、決定、採用にあたっては、どこまでもインテグリティ(誠実、正直、公平)重視!
B.現地慣習と収賄の境界線が曖昧な場面での意思決定:
<例題>
新興国でプロジェクトを進めているあなたは、現地の有力なコンサルタントから「少額の謝礼を特定の官僚に渡せば、許認可手続きが迅速に進む」と提案された。この場合あなたがとるべき最も適切なアクションは次のうちどれか。
<選択肢>
A. 提案内容をコンプライアンス部門に報告し、正式な対応を確認する
B. 謝礼の手配はコンサルタントに任せ、自分は直接関与しない
C. 手続きの迅速化を重視し、社内規定に違反しない範囲で独自に判断する
D. 現地慣習として受け入れ、迅速な進行を優先する
<正解>
A. 提案内容をコンプライアンス部門に報告し、正式な対応を確認する
<解説>
PMI倫理規定では、「正直さ(Honesty)」と「責任(Responsibility)」が中核的な価値とされています。仮に第三者を通して行ったとしても、その行為に対する責任を免れることはできません。現地の商習慣に配慮しつつも、贈収賄に該当する可能性がある行為については、必ず社内の適切な部門と連携し、正式な方針に従うべきです。
不適切な選択肢:
B:責任の所在を曖昧にしようとする点で5.2.3違反。
C:自己判断でグレーゾーンを進める行為は、倫理規定違反のリスク。
D:慣習を理由とする正当化は倫理規定に反します。
なお、サンプル問題の類似問題に接待や、贈答品への対応があります。「一度だけなら問題ないと考え、招待を受ける」、「受けた恩義に報いるため、サプライヤーを優先的に評価する」、「招待は受けるが、選定には影響しないと自分に言い聞かせる」、「一般的な贈答品のようなのでとりあえず受け取っておく」・・・こういった選択肢はすべてアウトです。
●●考え方●●
・現地の商慣習にできるだけ従い相手国との良好な関係構築に努力。
・キックバックに関してはコンサルタントなど第三者を通した場合でも倫理規定違反。
・高級レストランでの飲食接待、規定を超える贈答品受領、高額カラオケ接待も一発アウト!
C.自身の関係する企業がプロジェクトに関与していることを開示しない:
<例題>
あなたは、A国で進行中の大規模灌漑工事プロジェクトのPMに任命された。プロジェクトには、あなたの親族が役員を務める企業がサブコントラクターとして応札している。あなたがとるべき最も適切な対応は次のうちどれか。
<選択肢>
A. 親族が役員を務める企業であることを、コンプライアンスおよび調達担当に開示し、指示に従う
B. 自分は公平に判断できるため、特に情報を共有する必要はない
C. 応札金額が少額であるため、関係部署への共有は行わない
D. プロジェクトの円滑化を優先し、通常の範囲での配慮にとどめる
<正解>
A. 親族が役員を務める企業であることを、コンプライアンスおよび調達担当に開示し、指示に従う
<解説>
PMI倫理規定では、個人の意図よりも「外部からどう見えるか」が重要視されます。たとえ不正の意思がなくても、関係性を開示しないこと自体が誠実性に欠けると見なされます。利害関係者との関係性はすみやかに開示し、公平性が損なわれるリスクを事前に排除すべきです。
誤りのある選択肢のポイント:
B:誠実性を本人の意識だけで担保しようとする点で不適切。
C:金額の大小に関係なく、関係性は開示が必須。
D:「配慮」は公正さではなく、透明性と信頼性の担保を優先すべき。
●●考え方●●
・本人の意図よりも「どう見えるか(利益相反行為か否かは行為の外形から判断)」が重要!
・キックバックが疑われるプロジェクトへの親族企業の応札は控えることがグローバル標準!
PMI「倫理・職務規定」攻略の3ステップ
これらの倫理問題は、PMP試験における頻出テーマです。確実に得点するためには、以下のステップで学習されることをおすすめします。
STEP1.まずは「倫理・職務規定」の原則を正確に理解する:
STEP2.典型的な出題パターンとミスリードの見極め方を把握する:
STEP3.演習問題を通してベストな選択肢を選ぶアプローチを身につける:
さて、今回とりあげたサンプルの内容は、いずれも昭和の時代ならいざしらず、現在ではコンプラ以前の常識を疑うような状況設定です。ただし、国内外に関わらず、現在でも似たような事例が存在していることはニュースやSNSで皆さんご承知のとおり。PMI「倫理・職務規定」の試験対策としては、「ああ、あれだな」とイメージするといいかもです。
なお、ご参考までに、第三者や知人の行為について見聞きした場合、「自分はああいう行動はとるまい」、「自分には関係のないことだ」、「人間的に尊敬できるため信じたくない」などと考え、とりあえず自分の与えられた仕事に集中する、という判断もアウトです。PMI「倫理・職務規定」では、明確な行動指針を示しています。
5.3 誠実:必須基準
5.3.1 私たちは、他人を欺くことを目的とした行為に関与したり、それを見逃したりしません。これには、誤解される内容や、誤った内容を伝えたり、真実の半分しか伝えなかったりすること、文脈を無視して情報を伝えたり、知られると紛らわしさや不完全さが分かってしまう情報を伝えなかったりすることなどが含まれますが、これに限定されません。
※本記事の例題は、過去の模擬試験で実際に出題された問題をもとに再構成しています。
※公式資料はこちら:
※利害の衝突:
プロジェクトマネジメントの実務者が、自己利益になったり忠誠義務を負っている他の人や組織の利益になったりする一方で、同様の忠誠義務を負っている他の人や組織の利益を損なうような意思決定をしたり、そのような行動をとったりしなければならない場合に発生する状況。実務者が利害の衝突を解決できる唯一の手段は、影響を受ける人々に自らの利害の衝突状況を伝え、どのような進めるべきかの判断を仰ぐことです。(出典:PMI 「倫理・職務規定」および「倫理的意思決定フレームワーク」)