プロジェクト固有の『ライフサイクル』と一般的な『マネジメント・プロセス(5つのプロセス群)』の関係は、フレームワークとして理解しておく必要があります。
プロジェクトの規模やチームが大きくなるほど、管理項目は増加します。管理項目が多くなるとマネジメントの質が変化します。
PMP®試験を受験される方の中には、大規模プロジェクトのプロマネの作業はよくわからない、という方もいらっしゃるかもしれません。
PMP®試験は規模、業種を問う問題はありませんが、『マネジメント・プロセス』との関係については、ひととおり理解しておくと全体の見通しが良くなります。
また、実務面でも、どのような規模や業種のプロジェクトがアサインされても、フレームワークに沿って管理構造を押さえておけば、プロマネとして迷うことがありません。
5つのプロセス群
一般的に、プロジェクト管理のプロセスには5つのプロセスのグループ(プロセス群)を含みます。これらのプロセス群が、お互いにどのように関係しているかを示したものが以下の図です。
(図1)5つのプロセス群
プロジェクト管理のプロセスは、一般にプロジェクト・ライフサイクル(※1) と密接に関係します。例えば、比較的小規模な計画型(=予測型またはレガシー型)のプロジェクトにおいては、プロジェクトの立上げから終結まで一方向、一回限りで(滝の流れのように=ウォーターフォール)実行されます。実は、要件定義、設計、実装、テスト、納品といった典型的な計画型のプロジェクト・ライフサイクルの各工程の中で、上記のプロセス群は、まるでフラクタル構造(※2) を持っているかのように、何度も何度も繰り返し登場します。
※1 プロジェクト・ライフサイクルについては、後程、もう一度出てくるので、ここでは言葉だけ頭に入れておいてください。
※2 「部分が全体に相似している構造」のこと、自己相似性
大型の計画型プロジェクトでは、これらのプロセス群について、各工程ごとに厳密に管理することが求められます。つまり、各工程ごとに、内容の違いや比重の大小はあるものの、立上げ(I)、計画プロセス(P)があり、実行すなわち実装とテスト(E)のプロセスがあり、監視とコントロール(M&C)のプロセス、終結(C)のプロセス(※3) があります。プロジェクト・マネジャーはそれらを逐一マネジメントし、工程の終わりには、スポンサーの承認を得て、次の工程(※4) に進みます。
※3
I:Initiating
P:Planning
E:Executing
M&C:Monitoring & controling
C:Closing
※4 各工程の終わりには「フェーズ・ゲート」と呼ばれる、確認イベントが控えています。フェーズ・ゲートでは、その工程で計画していた内容と比べて、その工程のアウトプットがどうだったか、ギャップ(乖離)はないか、乖離があればそれはどこで、何故それが発生し、他に類似事象がないか、影響はどこまで及ぶのか、などについて分析します。分析の結果によって、修正したり、もう一度やり直したり、場合によっては一旦ストップしたり、という決定をします。
※5 PMBOK®のプロセス・フローについては、PMP®で、コンサルタントのリカルド(Mr. Ricardo Viana Vargas)さんが素晴らしいフローを公開されています。ご自身のサイトやYoutubeで公開されていますので、ご参考になさってください。
マネジメント・プロセスの概要
それでは、各マネジメント・プロセス群の配置に沿って、PMBOK®で説明されているマネジメント・プロセス(※6) の概要を順番にご説明します。
※6 説明の都合上、ここでは、マネジメント・プロセスのダイアグラムを、プロジェクト成果物(プロジェクト文書)を中心に置いて、一旦、上から下に流れる作業イメージで書きなおしています。
(図2)マネジメント・プロセス
【立上げ】
まず、スポンサーのビジネスケースをインプットにして、立上げプロセスを実行します。立上げプロセスにおけるプロジェクト・マネジャーとしての重要なミッションは2つ。プロジェクト憲章作成支援とステーク・ホルダーの特定です。
【計画】
プロジェクト憲章を前提に、計画プロセスを実行します。計画プロセスは10の知識エリアすべてにわたります。計画プロセスの成果物として、プロジェクト・マネジメント計画書が作成されます。プロジェクト・マネジメント計画書は、さまざまなプロジェクトについての計画書で構成されています。
【実行】
計画書にしたがってプロジェクトそのものが開始され、プロジェクト・チームメンバーの協力によって、実行されてゆきます。そのパフォーマンスはEVM値をベースとして定期的に報告されます。
【監視・コントロール】
実行中は計画との乖離が無いかどうか、監視・コントロールプロセスで追跡します。実行中の計画との乖離は随時調整され、進捗、コスト、品質、その他のベースラインへの復帰が行われますが、場合によっては、ベースラインそのものの変更が必要となる場合もあります。変更管理委員会で承認された変更に基づいてプロジェクトはゴールに向かって継続してゆきます。
【終結】
顧客の要求事項を全て満たしていることを確認して、プロジェクトは終結し、プロジェクトの各種データは教訓という名前の組織のプロセス資産として次のプロジェクトに引き継がれてゆきます。
以上がPMBOKに定義されているマネジメント・プロセスの流れです。世の中にはさまざまなプロジェクトがありますが、成功しているプロジェクトについては、多かれ少なかれ、またルール化されているかどうかにかかわらず、上記のプロジェクト・マネジメント・プロセスがきちんと実行されています。
プロジェクト・ライフサイクル
ここまで、PMBOK®には以下のようなプロセス群という概念があることをご説明しました。
・立上げ
・計画
・実行
・監視・コントロール
・終結
一方、プロジェクトにはライフサイクルがあります。試験対策としては、プロジェクト・ライフサイクルとプロジェクト・マネジメントの違いを明確に理解しておく必要があります。
プロジェクト・ライフサイクルとは、建設業なら事業化調査、基本計画から始まって、見積・契約・設計・調達・工事・メンテナンスなどの工程そのもの。ITプロジェクトなら、企画、基本設計、詳細設定、実装・単体テスト、結合テスト、総合テスト、導入・設置、教育、保守などの仕事そのものの工程のことです。
プロジェクト・ライフサイクル・マネジメントとプロジェクト・マネジメントの両方とも重要な概念ですが、要するに、プロジェクト・ライフサイクルが「何をすべきか」に関連しているのに対して、プロジェクト・マネジメント・プロセスは「管理する為に何をすべきか」にフォーカスしている点が大きく違います。
この関係が理解できると、実際の仕事の流れの中に管理の流れを位置づけることができて、大変すっきりします。
プロジェクト・ライフサイクルとマネジメント・プロセス
前項で説明したとおり、プロジェクト・ライフサイクルは、仕事そのものの工程を指しているのに対して、マネジメント・プロセスは、プロジェクトを管理する為に何をすべきか、を表しています。
2つの大きな違いは、プロジェクト・ライフサイクルが業種や、プロジェクトの規模によって千差万別であるの対して、マネジメント・プロセスは、1パターンだけ、という点です。
これは、ライフサイクルの一部が重複していようが、反復型の工程が何本走ろうが、プロジェクトを管理するプロセスの最小単位のサイクルは、たったひとつだけ、ということを意味しています。
(図3)プロジェクト・ライフサイクルとマネジメント・プロセス
計画型のプロジェクトでは、プロジェクト全体が、一つの大きなマネジメント・プロセスによって一貫した開発プロセスの構造を備えていますが、さらにそれぞれの工程の中にも、同じ構造をしたマネジメント・プロセスが、繰り返し数多く出現します。
例えば、WBS上で20機能の開発タスクがあれば、20個分、I>P>E>M&C>C のプロセスの構造が備わっていて、プロジェクト・マネジャーは意識しているかどうかに関係なく、日々その構造にそってマネジメント業務を繰り返しています。この構造は、業種や業務が違っても、計画型のプロジェクトであれば概ね共通しています。
updated 2020/11/16