プロジェクトの選定と優先順位付けは、企業や事業部にとって、ゴール達成のためにますます重要な要素となっています。しかし、従来のように、戦略スタッフの属人的なスキルに頼ったり、会議で時間をかけて合意形成するやり方では、市場のスピード感に対応するのが難しくなっています。

プロジェクト管理の世界ではPMP試験にも登場する「ベネフィットコスト分析(BCA)」などの手法がよく使われています。実際は財務指標だけでは対応できていないケースも多く、主観やバイアスが入るリスクもあります。また、精緻で大規模なプロジェクト選定手法もありますが、導入や習得に時間とコストがかかるため、スタートアップや中小企業が手軽に利用できるものではありません。

そこで、この記事では、AIを活用した「SmartProject Navigator(SPN)」を使うことで、プロジェクト選定の精度と効率を大きく向上させるアプローチについて紹介しています。SPNは生成AIとEXCELを利用した「プロジェクト選択」の一連の手順を名付けたものです。直感的で使いやすく、誰でもEXCELと無料版のChatGPTで、今すぐ始めることができます。


1.   何がやりたいのか?

予算編成時にどのプロジェクトに投資すべきかを決める際、最も重要なのは、投資効果の高いプロジェクトを選び出し、経営資源を効率的に配分することです。

そのためには、正しいクライテリア(判断基準)を設定し、リスクを最小限に抑えつつ、戦略的整合性を持ったプロジェクトを選定する必要があります。

最終的には、このプロジェクト選定の結論を経営者や投資スポンサーに説得力を持って提案し、プロジェクトを承認してもらうこと、予算や人的リソースの承認を得ることがゴールです。

恩恵を受ける利用者は、事業責任者や部門リーダー、スタートアップの経営者、PMOメンバー、経営管理スタッフ、案件審議委員会、ポートフォリオ・チーム等が想定されます。


2.   6つの最重要クライテリアとは

プロジェクト選定フェーズでの精度を高め、戦略的な判断を迅速かつ効果的に行うために、以下の6つのクライテリアが重要です。これらは、特に初心者にもわかりやすく、レーダーチャートにしやすい要素として絞り込んでいます。

プロジェクト成功率の予測

市場と競争環境の影響

財務・マーケティング面の考慮

自然言語処理によるプロジェクト提案の分析

リソースの最適化と動的配置

リスクと不確実性の評価


3.   [その1] プロジェクト成功率の予測

まず最も重要なのは、プロジェクトの成功率を予測することです。

過去のプロジェクトデータを分析し、成功したプロジェクトの特徴や失敗しやすいパターンを見つけ出します。

例えば、予算が十分に確保されているか、チームに経験が豊富なメンバーが揃っているかなどが、成功率を左右する要因になります。また、品質問題の多発で出荷後障害によるコストがプロジェクトの採算性を悪化させる可能性があるかもしれません。

プロジェクトが失敗した場合、例えば品質指標値などそのプロジェクトの品質データはどうだったのか、失敗につながったアクションは何だったのか、など事例から学びを得て次回の選定に活かすデータ基盤をAIが構築します。

これらのデータを活用することで、リスクの高いプロジェクトを避け、成功が見込まれるプロジェクトにリソースを優先的に投入する判断ができるようになります。つまり、過去の経験から学び、会社の時間やお金、人材をより効果的に使うことが可能になります。


4.   [その2] 市場と競争環境の影響

「市場と競争環境の影響」は、プロジェクトが市場の変動や競合の動きにどれだけ敏感に対応できるかを評価します。

現在のような変化の激しいビジネス環境では、これは極めて重要な判断基準です。

高評価のプロジェクト:市場のトレンドを捉えており、競争相手に先んじているプロジェクト。また、規制の変化にも素早く対応できる柔軟性があるもの。

▶中評価のプロジェクト:市場や競争にある程度対応できるが、改善の余地があるプロジェクト。 競合に先行される可能性があり、柔軟性がやや欠けるもの。

▶低評価のプロジェクト:市場の変化に対応できず、競争力が弱いプロジェクト。例えば、古い技術に依存し、柔軟な変更が難しい場合などが該当します。


5.  [その3] 財務・マーケティング面の考慮

経営学の授業で、伝統的に最も重視されてきた領域です。

財務やマーケティングの観点から、プロジェクトが会社にどれだけの利益や成長をもたらすかを評価します。

ベネフィット・コスト分析結果はこの軸で表現されています。具体的には以下の点を考慮します。

利益率:プロジェクトがもたらす収益に対してコストが適正であるか。

▶市場シェア拡大:プロジェクトが市場シェアの拡大に貢献するかどうか。

▶売上成長:新規顧客の獲得や、売上増加に寄与するか。

▶コスト削減:効率化によってコスト削減が見込まれるか。

▶ROI(投資対効果):プロジェクトに投入した資源に対して得られるリターンが十分かどうか。


6.   [その4] 自然言語処理によるプロジェクト提案の分析

自然言語処理(NLP)を活用して、企画書や提案書の内容を自動的に解析します。

これにより、経営者の目標や戦略にどれだけ合致しているかを確認し、効率的に意思決定を支援します。

例えば、提案書に利益や品質管理についての記述があれば、NLPがその部分を解析して経営者の求める結果に合致しているかを自動で判断します。

パワポのデザインや見易さ、色使い、レイアウティングとかは評価に直接関係ありません。

従来は人間が行っていたこの作業をAIが代替することで、バラツキが減り、判断の精度が高まります。


7.   [その5] リソースの最適化と動的配置

限られたリソースを最も効果的に使うため、どのプロジェクトに、どの時点で、どれだけのリソースを割り当てられるかをAIが最適化します。自社のメンバーで賄えるか、外部リソースの契約が必要か、いつから投入したら良いか、を判断します。

例えば、3つのプロジェクトが同時進行している場合、動的な再配置を前提に、フェーズによっては、最も重要なプロジェクトに多くのリソースを割り当て、他のプロジェクトには最低限のリソースを配分することで全体の効率を高めます。

これによってプロジェクトのリソースの可用性を初期計画で固定化せずに、適切なタイミングと量を判断し、リソース過剰や不足のリスクを最小限に抑えます。


8.   [その6] リスクと不確実性の評価

AI複数のシナリオについてシミュレーションした結果に基づいてプロジェクトに潜むリスクを数値化し、プロジェクトのリスクレベルを評価します。

例えば、新製品開発プロジェクトの場合、技術的なリスクや市場の変動、競争リスクなどを総合的に判断し、リスクの高いプロジェクトには追加対策が必要か、あるいは優先順位を下げる判断を行います。


9.   分析結果の例

上記の6つのクライテリアを使って、プロジェクト選定の為の、架空のプロジェクト分析・評価をしてみました。

サンプルプロジェクトは以下の3つです。

▶既存のメインフレームのERPシステムのクラウドへの移行

▶AIを活用した大規模ECサイトのバージョンアップ

▶自動倉庫やロボットを活用したグローバル物流システムの構築

それぞれのプロジェクトの特性に応じて、バランスの違いが視覚化されています。 ​

図1:既存のメインフレームのERPシステムのクラウドへの移行

ポイント】

どの評価軸についても総じて高いスコアを獲得していますが、[クライテリア – その4] 自然言語処理によるプロジェクト提案の分析のスコアだけ4ポイントと凹んでいます。

これは、プロジェクトの提案書をAIが読み込んで「この提案書に記載されている内容を判断する限り、プロジェクトが組織のゴールに貢献度はイマイチ」または「ピンとがズレている」と評価していることを示しています。

図2:AIを活用した大規模ECサイトのバージョンアップ

ポイント】

財務面や、マーケティング面では問題無し。提案内容もそこそこ評価できるものの、自社の人材だけではAI技術を活用しきれないリスクにより評価が低くなっています。人材確保の問題から、成功予測のスコアも厳し目です。

図3:自動倉庫やロボットを活用したグローバル物流システムの構築

【ポイント】

最後の例はグローバル物流システムの構築のプロジェクトです。この例では提案内容をもとに、過去のプロジェクトデータを分析し、予算や開発リソースの確保などの点で、失敗しやすいパターンを見つけ出した可能性があります。


10.   まとめ

AIを活用したプロジェクト選定には、スピードが速い、コストが低い、属人的なバラつきが減る、全体最適の視点を持てるなど、さまざまなメリットがありますが、最も大きな特徴は「動的な」プロジェクトの優先順位付けが可能になる点かもしれません。

経営環境は常に変化しています。市場も変われば、組織体制や経営者、技術、消費者の嗜好も変わっていきます。また、プロジェクトの進行フェーズに応じて、必要なリソース(人材、資金、時間)も動的に変化します。

最初に決めた投資を最後まで動かせない状況というのは、実際の環境とはかけ離れています。

これに対して、AIを活用した動的な優先順位付けにより、現場・現物・現時点に基づいた、より現実的なプロジェクトの評価と選定が可能になります。

【注意点】

政治的な要因がからむ場面では人間がステークホルダーの関与状況等を勘案して、調整を加えるプロセスが重要です。

スコアリングを左右する生成AI用のプロンプトのセットは、プロジェクト環境によってテーラリングが必要となります。

この記事の作成にあたっては、以下の資料を参考にしています。

▶AI Tools for Portfolio Management: What Are They & How Do They Work?

 ┗https://www.mdotm.ai/blog/ai-tools-for-portfolio-management

▶AI for Portfolio Management: Overview, Benefits, Use Cases, and Implementation

 ┗https://www.leewayhertz.com/ai-for-portfolio-management/

Revolutionizing Project Selection With AI (ProjectManagement.com)

Antonio Nieto Madrid, Spain Chapter +1 – September 11, 2024


updated  2024/09/14
INTUIT LLC

(69)AIを活用してベストなプロジェクトを選択する超・お手軽な方法