試験準備では、本番試験までに合格レベルに実力アップするための学習計画を立てると思います。この学習計画、作成はなんとかできますが、それをやりきることがなかなか難しい。というか、途中で挫折したり、いきあたりばったりになってしまうことも多いようです。

計画どおりに行かない最大の失敗の原因のひとつに、計画段階では適正な分量がわからない、一日の作業量の見積がよく見えていないことがあります。たいてい最初に計画をたてる時は、やる気になってるので計画は盛り気味になってしまう。最後に全部できずに挫折すると、罪悪感と情けなさを引きずることにもなりかねません。そこで今回は、自分の置かれた環境を前提にした(破綻しない)学習計画の立て方をご紹介します。


今期中に受験を計画している斎藤君の例

“えーと、『PMBOKガイド』を毎日読んで曖昧な知識をノートに整理しとくかな。豆検の問題集は通勤電車の中で毎日解くことにしよう。ということはあと2ヶ月ちょっとで本番試験としても、まだ60日以上はあるな。

実際は、PMBOKガイド第7版(本編約360ページ)の最後までたどり着くこと無しに本番当日を迎えることになってしまいました。本番試験では5問目のプロジェクト・マネジャーのアクションを問う問題では、どの選択肢も正しいように思えてきました。頭が真っ白になるというのは本当にあるんだな、と実感しました。とりあえず、難しい問題はあとで見直そう、と考えて先に進みました。あっという間に終了時間となりました。いくつかの問題は白紙回答のままでした・・・

斎藤君の例だけでなく、やりきれる計画を作るのが難しい理由は、実際に自分にどの程度の学習進捗があるのか、外部環境の変化を含めて最初の計画時点では予想ができないためです。

さらにもうひとつ、計画時点では、突然、将来への展望が開けたような高揚した気分になります。そして自分の余裕時間や学習能力について、根拠のない自信過剰状態になります。その結果、ともすると学習分量を多めにスケジュールに盛ってしまいます。なぜ断言できるか。筆者自身がそうだったからです。こうして試験対策をとりまく不確実性に気づかないまま、ゆっくりと混沌に向かって時間がすすんでゆきます。


やりきれる計画を作るにはどうしたらよいか

計画倒れにならない為の教訓は、いろいろあります。たとえば週末はバッファとして使用し、スケジュール修正の余地を残す。壁に進捗表を貼って「見える化」する。などなど。

いずれも有効なテクニックだと思いますが、スタート時の計画を前提としている限り、本質的な解決にはなりません。ここでは、アジャイルの技法を活用した学習計画作成、実行のノウハウをご紹介します。

アジャイル・プロジェクト管理の工数見積や負荷管理についての重要な概念として 『ベロシティ』 と 『バックログ』 の2つがあります。この2つは、アジャイル・プロジェクトだけではなく、実は、大学受験や情報処理試験などの試験準備にも大変役に立つ理にかなったとてもシンプルな手法です。


まず1週間の自分のベロシティを測る

ベロシティとは、スクラムの用語で1スプリント(*1)にチームが消化したポイントの合計のことをさします。アンチパターンとか気になるので専門用語はできるだけ使いたくないのですが、なにせ便利なのでそのまま使います。

ここではチームは自分自身なので、例えば、

自分が1週間で消化できそうな、『問題集』の問題の数

を意味しています。

ベロシティを入手するには、まず自分が1週間にどのくらいの『問題集』の問題を解けそうか、とりあえずやってみます。

斉藤君は、自宅の最寄り駅から、会社のある幕張駅まではだいたい40分くらいかかります。行き帰りでは1時間20分でした。1週間、通勤学習をやってみたところ1日に消化できる問題は、10問でした。1週間では50問はいけそうでした。

念の為、と思って翌週もベロシティについて調べてみたところ、1週間で30問でした。原因は、残業で疲れてしまって、帰りの電車でとても問題を解く元気が残っていなかったこと。それと、金曜日にはチームの飲み会に参加したため帰りの学習は無理でした。

ということで、斉藤君の問題集消化のベロシティは平均して、1週間(=1スプリント)あたり40問として設定することにしました。

(図 :学習ベロシティの計測)

ベロシティ算出のコツとしては、直近1週間ではなく、2週分、可能であれば直近3スプリント程度の平均ベロシティも比較してみると良いです。というのは、問題演習の時間とれなかったり、体調がすぐれなかったりなどで、ベロシティが少ないケースがある為。ある程度、最低でも3週間程度の期間のベロシティの平均をとることがおすすめです。


“学習テーマ” のバックログに優先順位をつける

次に 『学習テーマ』 の優先順位について見直しを行います。
ほとんどの人は、さまざまな参考書や問題集を買うと、頭から学習していっていると思います。
思い切って、学習の順番を変えます。

例えば、問題集は以下のようにに各章ごとに10問ずつの問題集にグループ分けされているとします。

第1章 基本的要素
第2章 プロジェクトの運営環境とPMの役割
第3章 プロジェクトの立上げ
第4章 統合/計画編
第5章 スコープ/計画編
第6章 スケジュール/計画編
第7章 コスト/計画編
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      ・
第14章 統合/実行編
第15章 品質/実行-監視編
第17章 コミュニケーション/実行-監視編
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      ・
      ・

もちろん、これらを順に第1章から学習してゆくオーソドックスな方法もありますが、自分の学習進度や弱点分野などと本番までの残り時間を勘案して、『学習テーマ』のバックログに 『優先順位をつける』 ことができます。

バックログに優先順位をつけるやりかたはいくつかの方法がありますが、よく知られているのはMosCow法 (*2)と呼ばれるやりかたです。ここでは学習テーマである豆検の問題について次の基準で優先順位をつけることにします。


学習の順番を思い切って入れ替える

斉藤君は、MosCow法をつかって、とりあえず『合格編』 に絞って、問題集の優先順位を並べ替えてみました。
早めにPMBOK全体感を理解しておきたいと考えていたので統合マネジメントについて学習の順番をMustのグループに集中させました。
ライフサイクルを選択させる問題や、アーンドバリューについても、まだちゃんと理解できていないので、時間切れにならないようにMustのグループに移しました。
逆にコミュニケーションやステークホルダー管理などの人間系の問題は、斎藤君の得意領域です。Couldのグループに移しました。

こうして学習スケジュールを、新しい優先順位別に並べ直したものが以下の図です。万一、時間切れになったとしても、苦手な計算問題で点を失うリスクはずっと少なくなっているはずです。

(図:学習テーマのバックログ)

今回は、 『ベロシティ』 と 『バックログ』 の概念を活用した学習計画作成の方法についてご紹介しました。これらは、横文字にするなにやら難しそうですが、リアルを前提に、①情報の少ない中でたてた当初計画の不確実性をあっさりみとめてしまって、②混沌は避けられないのなら、その混沌に秩序をあたえて少しでも扱いやすくしよう、とする、日本の製造業では先輩たちがはるか昔からとりいれてきた、職場の知恵のひとつです。

特に期限が決められている時の学習計画を作成する場合に、失敗が少ない方法としておすすめです。

 


付録:成果物を小分けしてリスクを最小にする見積り手法の話

このページのテーマから、ちょっと横道にそれます。このページでは詳細な説明はしていませんが、アジャイルの見積手法そのものについて、もっと詳しく知りたい方は、スクラムにおける見積りについて詳細に解説した書籍に目を通すことをおすすめします。筆者がおすすめする書籍は以下です。実践的な内容で書き方もわかりやすいです。

(参考にした本)

アジャイルな見積りと計画づくり ~価値あるソフトウェアを育てる概念と技法~

*1 スプリント
アジャイル開発の特徴の一つは、反復 (イテレーション) と呼ばれる短い開発期間の単位を採用することです。この反復期間の中で、設計・実施・評価・改善というサイクルを繰り返し、プロジェクトを進めることで、小分けにした成果物のリスクを最小にしながら、顧客の要望を段階的に反映させることができます。この反復のことをスクラム開発ではスプリントと呼びます。スプリントは1 – 4週間で設定されることが多いです。このスプリントの中で、バックログにリストされていたストーリー(設計、実装、テストまで)を完成させてゆきます。

MoSCoW法を活用した学習計画 (*2)
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M 本番までに絶対攻略しておきたい問題(学習テーマ)
S できるかぎり解いておきたい問題(学習テーマ)
C もし時間があれば解いておきたい問題(学習テーマ)
W 余裕があればやっておいても良い程度の問題(学習テーマ)

Must 絶対必要
Should 可能であれば実装すべき
Could 実装できるとよい
Want 今回は実装しないが将来に実装する可能性がある

(52)学習スケジュール作成のノウハウ(更新)
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